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今回のコラムは対談ゲストに僕の恩師で音楽の師匠の1人でもあり、第2回わっしょい米子祭りにて共演する米子西高校吹奏楽部現顧問、長富陽一先生をお迎えし、お話しさせていただきました。
このページの目次
恩師との共演
東高と西高が合同でステージに立つ
横田誓哉:先生、この度はわっしょい米子祭りへの出演を快諾していただきありがとうございます。
長富陽一:いえ、こちらこそ声をかけていただきありがとうございます。
横田誓哉:今回は米子東高校吹奏楽部と、長富先生が顧問を務められている米子西高校の吹奏楽部の合同バンドの出演をお願いさせていただきました。
地元の吹奏楽が好きな方達にとっては東高と西高が合同でステージに立つ事が珍しく、関心が高まっています。
長富陽一:そうなの?どうしてだろう。
東高と西高の合同バンドが今まであったかどうか、僕が記憶する限りは確かになかったかも。個人的には米子東も米子西も勤めている高校だから違和感なく、自然な事だと捉えています。
3~4年前くらいにばったり藤原に会った
横田誓哉:何より高校時代、先生の生徒だった僕と今回のスペシャルゲストの藤原聡は先生と一緒に演奏出来る事を楽しみにしています。
長富陽一:こちらこそ、誓哉や藤原と演奏するのも部員と共に楽しみにしています!
実は3~4年前くらいに、米子で藤原とばったり会って。「やっぱり音楽の道が諦められなくて今の仕事を辞めまして、これから上京します」と話してくれたんだよ。
藤原とはそれ以来になるけれど、縁があるなぁと感じています。
誓哉、藤原、朝田の3人全員が米子東高校に入学
横田誓哉:高校時代の僕と藤原の印象など、何かあれば聞かせてほしいです。
長富陽一:君達が中学生の時かな。僕は東高で吹奏楽部の顧問をしていました。
その当時、誓哉、藤原、そして朝田の3人が僕達の間では、ちょっとした話題になっていました。この3人はドラマーとして非常にレベルが高かったから。吹奏楽に限った話ではないと思うけれど、その分野で有望な中学生がどの高校に進学するのか、高等学校で部活動の顧問をしている人間にとっては気になるよね。
そしたら何と、誓哉、藤原、朝田の3人全員が米子東高校に入学。もちろん3人とも吹奏楽部に入部してくれた。
誓哉はドラムのイメージが特に強くて、藤原はかなりのレベルだったピアノ、他にもチェレスタやティンパニやら全てを高水準でこなせるマルチプレイヤーのイメージがあったかな。
3人ともフィールドが違いながらも音楽を続けている
横田誓哉:朝田は米子で『arusuisou』というバンドや、その他もバンドでもドラムを叩いてますし、3人ともフィールドが違いながらも音楽を続けられているのは学生時代のあの時間があったからですね。
小学生の頃から大人のバンドを何バンドも掛け持ってステージに立っていたり、プロとの共演で県外にも遠征演奏したり、環境を考えると勘違いして天狗になってもおかしくない状況でした。
しかし、小学生くらいから金管バンドフェスティバルで同地区の藤原と朝田が叩くのを見て、こんなにも音楽に時間を費やしているにも関わらず、自分とレベルが変わらない2人に焦っていました。とても刺激的な学生時代だったと思います。
長富陽一という指導者
不味いならなぜ不味くなっているのか、審査ではそれを指摘されるだけ
横田誓哉:振り返ると、僕や藤原は長富先生から多くの事を学びました。
僕が記憶している先生の印象的な言葉は、「あなたがやっている事は腕がぶった切れて血もダラダラ出ているのに、膝の小さなかすり傷を気にしている様なものです」というものです。注意する事、学ぶ事、気にする事の順序を間違えないようにしなさい、というニュアンスだと解釈しています。
自分の状況をまずちゃんと見つめて理解し、行動、解決していかなければならないと僕達はよく叱られていましたね(笑)今でもよく思い出します。
長富陽一:そうそう。未だに様々な場面で感じます。
あとは好みの話とかね。
中華が好きです、和食が好きです、洋食が好きです、という好み。
しかし、例えば自分がいくら好きでも多くの人が不味いというものは、ただの不味いものでしかない。
吹奏楽コンクールでも審査員の好みに合わなかったといった声を聞いたりします。
全国大会やプロの演奏家のようなレベルであれば、審査員の好みはあるかもしれない。しかし、そこまでの水準に達していないレベルの話であれば、それは好みの話ではなく一般的に良いものか、そうでないものか。
不味いならなぜ不味くなっているのか、審査ではそれを指摘されるだけの話です。『好み』とは、一定水準を超えていなければ使うべき言葉ではないと考えています。
横田誓哉:先生の話を聞いて、まずは音楽に対しての基本的な知識や技術を身につけないといけないと感じました。
一般的には不味いものを好きなのは好みとは言わない、という例えが最高に面白いですね(笑)
長富陽一:まあ、だって当たり前のことだし、そうだへん?僕はそういう風に考えているよ。
横田誓哉:そうですね、他にも最高に面白い例えもこの会話の中であるのですが、自重します(笑)
記事として掲載できないのは残念だけれど、先生のハッキリとした物言いは好きです。
長富陽一:僕は構わんけどね。誓哉の編集に任せるよ。
専攻外の知識も豊富な長富先生
横田誓哉:さて、もう少し音楽の話を。
先生は大学ではトランペットを専攻されていましたがサックスの演奏もされたり、打楽器の知識も幅広くお持ちですよね。
長富陽一:基本的には飽き性なんだけどね。音楽という分野は僕にとってはずっと続けていられる『勉強』なのです。
それに、吹奏楽部の顧問をしていく上で、専門じゃない楽器の事も教えられるようになりたかった。
横田誓哉:鳥取県の吹奏楽事情は、唯一どの部門でも全国大会への出場経験がないなど、お世辞にも高いレベルとは言えません。
その中で先生は小編成中学の部で何年も連続で金賞や最高得点、高校の部でも前任の境高校で鳥取県勢としては17年ぶりの支部大会金賞を受賞されました。
華々しい実績を積み重ねた上で、それでも尚『勉強』ですか。
長富陽一:あの年の金賞を取った演奏についても、「今の自分ならこう出来るな」「こんな事はしなかったな」と振り返っています。
それは昔の誓哉達がいた頃の血気盛んな指導と年月を経た今の自分との違い。そして時代も違うわけですから。あの頃見えていなかった事が見えてきたというのは、年々実感していますね。
明確な指標がない文化部
横田誓哉:僕も様々な学校にお邪魔する機会がありますが、「打楽器の事はわからない」「金管楽器の事はわからない」など、専門外の楽器を敬遠されている先生が少なくないように感じています。
僕なりに危惧しているのは、良い指導者に恵まれず才能がある学生の可能性を潰してしまう事です。
どの部活でも何かを頑張ってやり遂げる楽しさを学ぶ場所だと思いますが、文化部はタイムで競っているわけでもないですし、明確な指標がありません。曖昧さが目立つ指導者もいます。
長富先生は厳しい指導でありながらも、全ての楽器のパートに対して真摯でした。
合奏指導でも「キラキラさせて」など曖昧な指導は一切なく、無責任な理由で怒られる事はありませんでした。
「この楽器はこういう楽器で、こうすればキラキラ聴こえますよ」と丁寧な指導をしてもらいました。自分達の意識が足りず叱られた時も、納得して更に上を目指していました。
長富陽一:時々きついこと言うけどね。それは僕の機嫌が悪いとかじゃない。本当にこうしなければならないと真剣に教えてるだけ。絶対真剣に教えるの。
楽器もね、状態の良し悪しは生徒にはわからない事も多い。学校や指導者側がメンテナンスしていかないといけない部分というのは存在する。それなのに、生徒の管理が悪いと言われてしまう事もあります。理不尽だし、素直に学んでいく気持ちになれないでしょう。
なるべく、ちゃんとしたものを用意できるような努力もしていますし、定期的にチェックしています。
最後に
長富先生にとっての『米子市公会堂』とは
横田誓哉:今回の会場である米子市公会堂は、僕にとっては米子の音楽文化の中心で想い入れが強い場所です。長富先生にとってはどのような場所ですか?
長富陽一:米子市公会堂は平成22年から26年まで耐震工事で閉館していて、現在の米子市公会堂はリニューアルして生まれ変わったよね?
約40年前、僕が中学三年生の時も実は公会堂ってリニューアルしていました。こけら落とし公演をやったんだよね。僕にとっても関わりが深い場所。僕が米子東を異動になる前、最後の演奏会も米子市公会堂でした。
誓哉も藤原も現役の1年生で、その時以来の一緒のステージ。どこか運命的なものを感じますね。
横田誓哉:お話を聞いて尚更当日が楽しみになりました!先生この度はありがとうございました。
長富陽一:ありがとう!当日は宜しくお願いします。
後記
派手なファッションやユーモア溢れる発言など、一般的な先生のイメージとは少し離れている事でも有名な先生ですが、僕にとっては生徒さんと本当に丁寧に、真摯に向き合われている教師の中の教師だと思いました。
あの時の経験が僕は今の活動、BBBBに活きていますし、藤原のOfficial髭男dismでの多彩な楽器を使ったアレンジは必ずや影響があるのではないかなと推察されます。
どちらかというとバンドの方で必死で片手間であった「部活の吹奏楽」から「吹奏楽という音楽」に変えて下さった、もっといえば「音楽に対する真摯な向き合い方」という意識を教えて下さったのは長富先生です。
当日はBBBBとのコラボ、また僕、藤原聡、長富先生の三つ巴の共演もありますのでお楽しみに!
この記事の出演者
横田 誓哉(BLACK BOTTOM BRASS BAND)
幼い頃から父の影響でドラムを始め、10歳で地元のバンドを掛け持ちしながらライブ出演を重ねる。
14歳の時Rittor Music主催「最強プレイヤーズコンテスト」にて年齢不問、プロアマ問わずドラムセットの部全国大会でグランプリ受賞。
19歳より上京し、20歳からBLACK BOTTOM BRASS BANDにスネアドラマーとして参加。後に正式メンバー加入。
全国各地にてホール公演やアウトリーチ、海外のフェス出演の他、綾戸智恵氏など著名なミュージシャンとの共演を行なっている。
バンド以外でもDEPAPEPE、平井堅、西野カナ(順不同、敬称略)などのレコーディングやテレビ、ライブ出演を行う。
これまでに江川ゲンタ氏に師事。
2014年より米子市ふるさと観光大使を務める。
長富陽一(米子西高等学校吹奏楽部 顧問)
鳥取県米子市出身。昭和音楽大学卒業。
平成6年~鳥取県義務教育学校教員、平成17~鳥取県公立高等学校教員、平成20~鳥取県吹奏楽連盟事務局長、平成29~鳥取県立米子西高等学校吹奏楽部顧問。
吹奏楽コンクール等において数々の優秀な成績を収め、2011年には当時顧問を務めた境高校吹奏楽部が鳥取県の高校としては17年ぶりの中国大会金賞を受賞した。2007年当時、米子東高校吹奏楽部顧問として今回出演するBLACK BOTTOM BRASS BANDの横田誓哉、Official髭男dismの藤原聡を指導。
熱い指導と共に各コンクール・地域での演奏・一年の集大成である定期演奏会を中心に活動する。